azao_olc’s blog

あざおOLCクラブは、ワールドワイドに活動する匿名のオリエンテーリング集団です。

From a Motel 6

みなさんはYo La Tengoというアメリカのバンドをご存知でしょうか。結成40年になる東海岸出身のグループで、多様なバックグラウンドを感じさせる音楽性や詩情が魅力で世界中にコアなファンがいます。日本の有名どころだと坂本慎太郎などでしょうか。一緒にライブしたり会談したりもしています。

坂本慎太郎が選ぶYO LA TENGOの曲ベスト5 | simonsaxon

(ジェームズが選んだ曲が無い!!のあの伝説のライブ版なのヤバいな)

僕もこのバンドの大ファンで、待てど暮らせどバンクーバーに来てくれないことにやるせない気持ちを抱いていたのですが、ある日「来ないなら見にいけばいいじゃない」と天啓が降りて来たのでその日に飛行機とチケットを取りました。

チケットの空き状況、週末かどうか、バンクーバーからの距離などを考慮した結果選ばれたのはコロラド州の小都市Fort Collins。これがカオスな一人旅の始まりでした。

 

Fort Collinsってどんなところ

コロラド州の州都デンバーから百キロほど北の都市で、ロッキー山脈の東の麓に位置しています。西を見ると高い山々が、東を見ると果てない地平線が広がっている自然豊かな場所です。人種構成は白人が80%、ヒスパニックが10%ほどで、アジア人は一人見たかどうかくらいのレベルでした。この辺はバンクーバーとはまるで違いますね。

Fort Collins, Colorado - Wikipedia

研究室の友人がコロラド出身なので助言を求めたところ

  • 冬のコロラドはスノースポーツするんじゃなければ最悪の時期
  • 車なしでFort Collinsに一人で行くなんて気が狂ってる
  • お前の旅には何の意味もない

などとありがたい言葉をいただきました。アメリカの郊外に行ったことがなかった自分は、特に二つ目の言葉の意味をのちに知ることになります。

 

旅程

飛行機と宿だけ抑えればあとはどうにでもなるだろがモットーなので、旅程は前日夜に組みました。当日空港でESTA(米国用簡易ビザ)の期限があと四ヶ月しか無かったことに気づきヒヤッとするが、これが始まりだった、、

旅程は金曜の夜発の飛行機でデンバーに24:00着、空港近くの宿までUberで移動、翌朝まあ何やかんやでデンバーに行きそこから高速バスでFort Collinsまで北上するというもので、Fortの宿がダウンタウンから少し離れたところにあるので市バス(なんと無料)を使うことにしました。

 

飛ばない、飛行機

やることをちゃんとやらない割に無駄に心配性な自分は空港に二時間ほど早く到着し、文献を読んだりしていました。そこで流れてきたのはエアカナダデンバー行きが2時間遅れとのアナウンス。

お家芸

24:00着の時点で宿のチェックインやUberがちゃんと捕まるかが不安だったのに、さらに悪化しました。北米最強レベルの遅延率を誇るエアカナダ、流石に仕事をこなしてくる。慌ててホテルにメールとBooking.com両方で連絡しますが返答はなく、こんな深夜に本当に宿に辿り着けるのか心配が募ります。

これならいっそ空港に泊まった方が良かったか(エアポートビバーク、エポビ?)などと後悔しつつ飛行機に乗りデンバーに着いたのは本当に午前2時で、外は大吹雪でした。もう疲れたのでさっさと宿に行こうと思ってUberのアプリを開いたところ、たかが10km程度の移動で値段が50ドル (=6500円)と出てきて目を疑いました。前日見た時は10ドル程度だったので何も気にしていなかったのですが、Uberの値段って混雑状況によって変動するんですね。一瞬本気で歩こうかと思いましたが、外は氷点下10度の吹雪だったので諦めました。そもそも高速道路しかなくて人が歩くことは想定されていないので、徒歩の選択をしていたら確実に凍死していたと思います。結局泣きながらUberに乗りホテルに到着、幸いカウンターは開いていたので無事部屋に辿り着くことができました。ちなみに謎のテンションで興奮状態だったのか、その後床に着くも午前6時まで全く眠れませんでした。ふざけんな。

翌朝はコロラドらしく快晴でそれはそれは美しく

メリカ

コーヒーを飲んでようやく一息つきました。無料の朝食は全然うまくないマックグリドルのパチモンみたいなやつをレンジでチンするスタイルで、普通にちょっと嫌でした。

メリカ

 

全員雰囲気で移動している

自分が一晩過ごしたホテルエリアはデンバーへのアクセスがかなり悪そうだったので、空港行きのバスに乗って一度空港を経由してから電車でデンバーへ行くことにしました。券売機で電車の切符を買うのですが、クレジットカードを2秒ほど差し込んだ後引き抜くことで支払いが完了するちょっと変なシステムで、支払いに成功したおっさんが周りのおばあちゃんとかに指導して回ってたのがなんか面白かったです。

しばらく駅直結のホテルのエントランスに避難して寒さを凌いでいたところ、周りの乗客らしき人が突然ゾロゾロ外に出て行ったので電車きたのかなと思って自分も外に出てみたら別にそういうわけではなく、同じように外に出た人も口々に「なんかみんな出てったから外出てみたけど何もわからん」とか言っててマジ適当だなお前らと思いました。すると集団の先頭が駅員と話した後V字に向きを変えました。なんだなんだと思って駅員に聞いてみると、「なんか電車来ないっぽいから臨時のシャトルバスあっちで乗って」とか言ってます。確かに券売機に朝8時まで運休と書いてあったのですが、もう10時近かったのでなんでなのと改めて聞いたら「知らないけど動いてないんだからしょうがないじゃん」的なことを言われました。もう何聞いても無駄だなと思い指さされた方に行ってみますが、特に乗り場が明記されているわけでもないので人が溜まっているそれっぽいエリアで待つことにしました。当然周りの人々も何も分かってないので皆お互いに「デンバー行くんだけどバスここで合ってる?」と聞き合っています。程なくしてバスが来てことなきを得ましたが、謎の一体感が生まれました。

ここ数年はサンフランシスコ、東京、ロンドンのような大都市しか行っていなかったので、他人と助け合いながら方向を定めていく感じが新鮮で良かったです。

駅から冬山を望む

こうした大小無数のトラブルを乗り越えようやくデンバーにたどり着いたのは11時前、Fort行きのバスまで少し時間があったので、近くのマーケットでどこにでもありそうなおもんないピザを食べました(面白くないのはお前でピザはうまい)。耳までしっかり食べました。えらいね。

鴨とネギ、ピザとコラ

バス停に戻って時刻表を確認するとFort行きのバスがなく、代わりに同じ時刻にSalt Lake City行きのバスがあります。あれ?と思って切符を確認すると、自分が取ったバスはFortを経由するSalt Lake City行きの長距離バスだったのでした。

ワロタ

また微妙な計算違いがあったなと思いつつとりあえず目的地には向かうようなので安心してバスを待っていると、なぜか周りのバスを待っている客がみんな話しかけてきます。

黒人女子「Fort Collins行きのバスってここだよね?バスっていつも予定時刻のどれくらい前に来るもんなの?」

おれ「デンバー初めてだし知らん」

顔にタトゥー入れたヒスパニック系男性「バス12:50だよね?」

おれ「うん(切符見ろ)」

中東系男性「Fort Collins行きのバスってここだよね?」

おれ「うん(今までのやり取り聞いてなかったのかよ)」

コロラド人、マジで全員雰囲気で移動してる説

 

ヤバいワイオミングまで行ってしまう

乗客の不安とは裏腹にバスはほぼ時間通りに到着し、切符を見せて乗り込みます。バス意外と古いっすね、コンセント動かないし窓汚すぎて外見えないし。

バスが発車すると、運転手から挨拶がありました。

「今日はSalt Lake City行きのバスに乗ってくれてありがとうな。私の名前はXXX(忘れた)。まずは注意事項がある。酒禁止・タバコ禁止・ドラッグ禁止。不必要に立ち上がらないこと。よっぽどの緊急事態じゃない限り運転席に近づくな。大声での私語禁止。私語がうるさいと感じた場合まずアナウンスで注意を入れる。それでも聞かなかった場合はバスを止めて直接注意する。3回注意しても改善されない場合は残念だがそこで降りてもらうことになる。あなた達をバスから追い出すのは本来私の仕事ではないのでちゃんとルールを守ってほしい。」

修学旅行のバスかよと一人でめっちゃウケてたのですが、発車して程なくしてちょっと車内が賑やかになってきたタイミングで早くもアナウンスが入り、ヒスパニック系のグループもしくは中東系の二人組(名指ししてなかったのでどっちか不明)が一ポイントを獲得してしまいました。全員「あ、あれマジだったしこのレベルの音量でもダメなんだ」と思ったはずです。

また数十分ほど高速を走ったのち、突然バスが減速し高速脇に停まります。今度は何かと思ったら運転手が降りてきて前の家族連れに「子供がうるさすぎるから後ろに移動して欲しい」と注意していました。全員「子供にも容赦ないんやな」と思ったはずです。

しかし十時間のドライブでドライバーは一人だけのようで、ある程度乗客もマナーを守るべきなのかもしれません。

そんな若干の恐怖政治もあり車内は落ち着いた雰囲気になり、昨晩ほとんど眠れなかったこともあり自分もうとうとしてきました。やがて高速を降りる気配があり地図を開くとちょうどインターを降りるところでした(右下の青丸)。

この時点で左上のピンが立っているダウンタウンに向かうものだと思い込んでいた自分は「そろそろ起きておいた方がいいかもな」と呑気なことを考えていました。するとバスはすぐに右折して公園に入り、「Fort Collinsに到着。ここは短時間の乗客の乗降だけなのでここが目的地じゃない限り出歩かないように。」とのアナウンスが流れます。地図を見ても自分はダウンタウンから遥か遠くにいます。

今回一番焦った瞬間

いまだにここしか停まらないのか信じられない自分は直感に賭けて粘る作戦も一瞬考えましたが、外してワイオミングまで飛ばされるリスクがヤバすぎると思い次のことを考えずにバスを飛び降りました。降りてチケットを確認すると目的地はHarmony Parkと書いてあったので、完全に自分の勘違いでした。

学び:知らないバスに乗る時は乗り場と降り場を確認するのがおすすめ!

さてどうすんべと思ってGoogle mapでルートを再検索すると16番の市バスを使うルートが出てきます。あーバスあるのか良かったと思って顔を上げると16と表示したバスが滑り込んできました。慌ててダッシュして乗り込み、運転手に行き先を確認してようやく山場を乗り越えたのでした。

 

Abbey roadの終わってるバージョン

スマホの電池が切れそうで厳しかったのでライブ前に宿にチェックインして少しでも充電することにしました(その薄汚いiPhone8を早く買い替えろ)。郊外のモーテルまで市バスが走ってたので終点で降りて道の反対側に渡ろうとしたのですが、え、信号なしにこれ渡れって言ってんの?

見にくいけど真ん中のコンクリが盛り上がってるところが中央分離帯で、その向こうにもう二車線ある

高速に繋がる幹線道路なので、両方向にえげつないスピードの車がブンブン走っていきます。近くの信号らしきところまでは十分くらい歩く必要があり、それをするとスマホの充電プランと次のダウンタウンに戻るバスとの時刻表をあらためて擦り合わせていく必要があります。しばらく逡巡しているとデニーズから出てきたババアがテイクアウトの袋を下げたまま平然と渡っていきました。それを見たら急にアホらしくなって自分も車が切れた隙に渡りました。いつか死ぬと思うけどな、これやってると。

 

閑話休題:めし

北米の料理で一番美味しいと思うのはバッファローチキンウィングです。日本でも食べられるところあんのかな?

揚げた鶏の手羽元にめちゃくちゃ酸っぱくて辛いソースを絡めたもので、これをブルーチーズのソースにディップして食べます。味付けもブルーチーズもクセが強いので好みが分かれそうですが、好きな人はめっちゃ好きだと思います。食べられる機会があればぜひ。

 

カナダから来たヤバいオタク

ようやくYo La Tengoのライブの話になります。ライブはSold out、せっかく来たので前で見たいなということで開場と同時に入りました。もうすでにビール飲んでたのでドリンクも買わずに直行、無事三列目を確保できました。

客層はほぼ白人で年齢層は多様、未成年の少年少女から初老の男女までいました。前にいた少女が物販で買ったらしきStuff Like That Thereのレコードを抱えていたのでめっちゃ渋いセレクションだなと思っていたところ、それに気づいた隣の中年の女性二人組がめっちゃセンスいいわねと話しかけてました。

pitchfork.com

この女性のうち一人がかなりコアなファンのようで、YLTを追っかけてNorth CarolinaやNYまで行ったという話をしていたので自分も会話に参加しカナダから見に来たと言ったらヤバいアジア人のオタクが現れたみたいな雰囲気になりました。このファンの女性(メーガン)や近くにいた黒人の青年とは開演までいろんな曲や昔行ったライブの話で大層盛り上がりました。

自分はYo La TengoのI heard you lookingという曲がこの世の音楽の中で一番好きで、シンプルなリフが徐々にカオスに変形していく展開、ノイズの渦に巻き込んでいくようなアイラ・カプランの狂ったギター、それを土台として支えるソリッドなベースとドラム、そしてあらゆるノイズを鳴らし尽くした後、最後に元のリフに戻ってくる壮大な旅のような曲です。僕はこの曲が好きすぎて聴くと感情がブチブチとちぎれそうになってしまうので、この感覚を失いたくなくて特別な時以外聴かないようにしているくらいです。

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自分の葬式ではこれを爆音で流してほしいと常々言っていたのですが、メーガンと一番好きな曲はなんだという話になってメーガンが「I heard you looking、これは生きて死ぬみたいな曲で私の葬式で流れる曲」と言っていたのにマジで感動しました。「自分の葬式で流れる曲」で意見が偶然一致した人、相当少ないんじゃないでしょうか。

そんなこんなでコアなファンたちと大層盛り上がって開演となりました。最近はライブに行ったら意外と音が良くなくて入り込めなかったりしたのですが(Yves Tumorとかかなり微妙だった)、ヨラテンゴに関してはそんな心配もなく最高で、東京で行った六年前のライブと同等かそれより良いくらいでした。

新譜の曲の中でも特にシューゲイザーのような音像が神秘的なMiles Awayはライブでもその雰囲気を完全に再現していて感動しました。

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往年のギターロックの名曲Sugarcubeも最高で、イントロのリフで卒倒しそうになりました。撮ってYoutubeに上げてくれた誰か、マジありがとね

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あとは自分が一番好きなアルバムPainfulから馬鹿でかいベースと暴れ回るキーボードがクソかっこいいSudden Organを演ってくれたのも来た甲斐がありました。

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全曲良かったですが、I heard you lookingはやってくれませんでした。ライブのセットリストは毎回大きく変わるので、これを生で聴くことを目標に今後も生きて行こうと思います。

 

From a Motel 6

ライブの後夢見心地で宿に戻り、朝食をダイナーで食べてからデンバーに戻る高速バスに乗り込みました。ライブにたどり着くまでの苦労に何が旅情だよクソがと思っていましたが、ライブが最高すぎて完全にリセットされてしまった安っぽい自分は、北米での暮らしに終わりが近づきつつこともあり少しセンチメンタルな気分になってきます。

カナダやアメリカの郊外は得てして大きな幹線道路が交通の要になっており、日本でもそうであるようにそのロードサイドにはデニーズのようなチェーン店や煤けたダイナーが並んでいます。これは自分が好きな北米の音楽のベースとなる風景の一部でもあり、思い出のために写真でも撮っておこうかなという気分になりました。

なんの変哲もないロードサイドの写真を何枚か撮った後うたた寝し、後でアルバムを見返したところその一枚目の写真に大きな6の文字を見つけました。

気になって調べるとこれはMotel 6というチェーンのモーテル会社の看板でした。これが自分の中では衝撃で、なぜかというと自分がこのMotel 6という名前を知ったのはまさにYo La Tengoの名曲「From a Motel 6」だからです。

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Motel 6というのが実在するモーテルの名前であることすら知らなかった自分が、一枚目の写真で偶然それをフレームに入れるというのは奇跡だとしか言いようがありません。自分以外には何の意味もない偶然ですが、このためにコロラドまで来た自分には特別な思い出になりました。奇跡というのはそんなものなのかもしれません。