azao_olc’s blog

あざおOLCクラブは、ワールドワイドに活動する匿名のオリエンテーリング集団です。

日記(日記)

3/10 (日)

起きたら10時半で萎える。そんなに寝たかなあと思ったが、そういえば今日から夏時間が始まったことに気づく。夏時間に移行する日は夜中のうちに一時間進むので、体感と時計が合わなくなるんだった。まだまだ寒い日が続くが、木の蕾の膨らみや空気の匂い、日の沈む時間から季節の移り変わりを感じるようになった。冬が終わると毎年永田和宏のこの歌を思い出す。

sunagoya.com

ネトフリでDARKというドラマを見始めた。ストレンジャーシングスもこんな感じじゃなかったっけ。途中で観るのやめちゃったけど。しばらく観てみようと思う。

 

3/11 (月)

研究ノートに日付を書き込んで今日が3月11日であることを思い出した。Yahooの検索すると十円寄付されるやつを昨日やったばかりなのに。やらないよりはマシだよなと思いつつ、軽薄な自分に少し嫌気が差す。

コーヒー豆をタッパーに入れて保存してるのだけど、開けたての時より香りが落ちてきた気がする。そもそも今の豆より前飲んだケニアの豆の方がフレッシュな感じがして自分に合ってた気がする。使う分以外は冷凍庫に保存したほうがいいんだろうか。

父親がいつもプアオーバーでコーヒーを淹れていたので自分もそうしてるけど、友人が直火のエスプレッソメーカーを使っていて、淹れ方にもいろいろあることを知った。味にそこまでこだわりがない自分には湯を沸かして豆を挽いてドリップする一連の操作が大事な気がする。日常はそういった正気を保つためのルーティンで満ちていると最近思う。

 

3/13 (水)

質疑応答でやたら高圧的になるポスドクを見てうーんとなり、同時に解析のやり方を聞かれて高圧的になってしまった最近の自分を思い出しもっとうーんとなる。石を投げたくなった時自分の中を覗き込むと大体そこにいる。

大昔に撮った写ルンですの写真の日付がバグって446万年になってるので、icloudのPhotoで常に最新の写真として一番に下に出てくる。

446万年後には人類はいないだろうが、脊椎動物の共通祖先の出現が五億年前ということなので、進化のタイムスケールは凄まじい。iCloudの配置に慣れすぎて気にもしなくなったけど、真面目に見たら少し懐かしくなったので一枚貼っておく。いつかのスウェーデン

 

3/15 (金)

ノーベル賞受賞者Ardem Patapoutianのセミナーを聴講した。痛みや感覚を司るチャネルタンパク質PIEZO1/2を発見した人で、PIEZO2をノックアウトしたマウスの背中にテープを貼ってそれに気づくかどうか検証したビデオを見せてThis is why I got the Nobel prizeという強いジョークを飛ばしていた。

研究におけるルールのうちDon't be too busy, Learn to say No, Never forget to enjoy scienceあたりは心がけていきたい。

 

3/16 (土)

急に春。ちょっとラボで作業してからキャンパスのレバノン料理チェーンで昼飯を食べた。ファラフェルのボウルが好き。

あまりに天気がいいのでバスに乗ってカフェに行き、冷たい紅茶を買って近くのビーチまで歩いた。同じことを考えた人々でビーチはごった返していて、上裸で走ってる人や泳いでる人もいる。観光客なのか天気予報を見てなかったのか、ダウンを着込んでる老人もいて場違いさが面白い。あたりでは爆音で音楽を流している若者やビーチバレーをしてる男女、キッチントラックで買ったポテトを食べてるソロサイクリング中の女性、だらけている犬、水遊びをしている家族連れなどいろいろな人が思い思いのことをしていた。

ちょうどベンチが空いたので、暇つぶしに持ってきた北原白秋の詩集(なぜか下巻だけ家にあった)を少し読んだ。当たり前だけど描写力が凄まじい。文だけで空気の霞みや湿り気、人の往来、丁寧でもなく美しくもない暮らしが見えるような気分になる。

引っ越した最初は目に映るもの全てが目新しかったけど、最近は日本との差分が均されてきたように感じる。とはいえ現地人に近づこうと努力しても結局は日本人なわけで、情緒や思想の深い部分まで理解することは難しい。海外に移住した人やその2世の子供がアイデンティティで悩む理由がよくわかる。

街が思想と行動を侵食する。

 

3/17 (日)

今日も晴れ。友達に勧められたので何年ぶりかに映画館に行ってThe Zone of Interestという映画を観た。アウシュヴィッツ強制収容所の隣に住む一家のグロテスクなほど平和な暮らしを壁の向こうから届く断末魔の叫び声と共に映す作品で、強烈だった。日本でも「関心領域」という邦題で5月から上映するらしいので是非。心に突き刺さった。

 

3/19 (火)

今日も晴れ。明日から天気は下り坂らしい。日曜日に買ったMassive AttackのBlue linesのレコードを流している。体温の低そうなラップの曲が続いた後、最後の曲で霧が晴れるようにメロディアスになるのが好き。

 

3/21 (木)

ラボで作業するとなんだか落ち着かないのでキャンパスのカフェに行くことが多い。仕事が進まないよりマシということにして出費には目を瞑る。

日本に行ったカナダ人が「日本人は自分のこと指差す時自分の顔を指すので最初よくわからなかった」と言ってたことをふと思い出した。西洋人は指差す時胸を指すようで、heart = 心臓 = 心なのがよくわかる。一方で日本人は心は頭の中にあると認識している人が多くて、物心二元論、西洋/東洋みたいな議論に繋げられそうなんだけど既に研究してる人がいそう。

向井秀徳の書く詩が好きすぎる。気分によって好きな曲は変わるけど、最近はdrunk afternoonの退廃的かつ感傷的な雰囲気が好き。

夏が過ぎて 真昼の酩酊
オレは傍観者。都会の中枢
半(はん)冷たく午後の風はふわふわと
窓から風景にあいさつ
町に生きる人たちを知る
―故郷のあの香りは いまだ変わらないだろうか?―


砂漠の格闘 都会のまん中
色街では裸の女が待っているらしい
午後1時オレ、いま5杯目GALAXIE500 聞いて酩酊
LからRへ 行く間に見える 知らない景色
届きますか? つながりますか? あなたのところへ

 

日記

早いものでカナダに来て三年が経過しました。簡単に最近のハイライトを紹介します。

 

バンクーバー邦人ライフ

バンクーバーはアジア人がとても多いので食品には困りません。年末は当然友人とすき焼きでした。

完全にジャパン

韓国スーパーで春菊を買うと日本感が三倍マシくらいになります。マジで。肉は薄切りがよかったので韓国系のスーパーで買いましたが、薄切り肉は手に入りにくく割高です。こっちの普通のスーパーの肉はめちゃくちゃ分厚いので、日本のレシピサイト見ても薄切り肉ばっかで当てになりません。風の噂ではスライサー(肉屋が使ってるガチのやつ)を持っていると在外邦人コミュニティの中で”王”になれると聞きました。人生一発逆転を狙ってる方、スライサー担いで日本を出ろ。

 

日本人の友達が最近皆ラーメンを作り始めました。まずお呼ばれして食わされたのは二郎系

あっ えー ヤサイニンニクアブラで(小声・早口・目は合わせない)

ご馳走しますよって言われたから来たのに麺作り手伝わされました。普通に遜色ない二郎系の味で美味しくて、こういう味ってマジで作れるんだなあと感動しました。ラーメンの真髄とは致死量の塩分・致死量の脂・社会的に致死量のニンニクであると再確認しました。

続いて一ヶ月経たずして別の友人がラーメン作ってから食べに来いと言ってきました。いやこないだ自作の二郎系食ったんだけどと言ったら「いやウチは魚介豚骨だから」とか言ってました。無駄に差別化すんな

この後たこ焼き焼いて食った

こだわりは1日煮込んだ魚介・動物の合わせ出汁と低温調理のチャーシューらしいです。めちゃくちゃ美味かったんだけど君たちはどこへ向かってるの

 

かくいう私も最近納豆作りにチャレンジしました。納豆作りは在外邦人の基礎教養と言えるレベルのようで、いろんな人が作った話を聞きます。初回は豆が硬くて浸水もうちょっとすればよかったなど反省点の多い出来でした。第二回に期待。しかし、やたらと煮込んだり発酵させたりし始めるあたり我々も年取ってきたなって感じがします。いずれ蕎麦を打ち始めるのでしょう。

納豆作りは二日がかり

Furry friends

北米はどこも家が大きいのでペット飼ってる家がとても多いです。適当にペットの写真を貼って皆さんに媚を売ります。

エントリーNo.1 バルー君

うちの家主の猫です。外猫なのでだいぶ臭い。50ドルくらいのお風呂サービスに連れてってあげようか考え中です。自分に都合がいい時だけ甘えてきます。

鳥っぽい

 

エントリーNo.2 ゴールデンドゥードゥル

濃厚魚介豚骨の友人の犬。名前は個人情報なので控えます。

お笑い芸人知らなすぎて「これって霜降り明星粗品って右だっけ」などと見当違いのことを考えていました。彼らはかまいたちで右の人は普通の人っぽい名前でした。粗品自体は霜降り明星の人で合ってたらしい。

スマートパピートレーニングのコースに2回参加したのにあんまり賢くない伝説のスマートドッグです。そのくせ行動の節々から筆者を下に見ていることが滲み出てきます。

 

エントリーNo.3 サモエド

かつて熊やライオンと闘っていた勇敢な犬、サモエドを友人が飼い始めました。

*元ネタ知らない人→ group_inou / THERAPY - YouTube

こいつは法外にモフい

この後玄関でウンコしました。ワンコだけに。キュートやね

サモエドの口の中は三葉虫みたいという発見もありました。

 

キャンプとか

寒くて雨ばかりのバンクーバーですが、たまーにキャンプに誘ってもらったりします。

夜明け前に雪が降った

そして雲が切れた

青い

こんな感じの雪道を車で入って簡単な焚き火をしたりなんか焼いて食ったりしました。バンクーバーの人間は毎週狂ったようにハイキングしてると馬鹿にしておきながらこうした行為に及んでいる、俺はそういう人間です。笑ってくれ。

 

夕焼けが紅すぎたから

やけに冷え込んだ一月のある日、異様なほど美しい夕焼けが広がっていました。

急速にポエんできた僕は短歌をGmailの下書きに書き込みました。

カナビスにけぶる車列 家路ゆく子
あした世界が終わる夕焼け
 
夕焼けがクソヤバすぎて最上川 
もうベジタリアンはやめていいかも
寸評→一句目、カッコつけててダサくてワロタ。誰でも詠める。二句目、ヤバすぎ。今まで詠んだ中で最高傑作。語感とバイブスだけで最上川が流れてしまうあたり(バイブス最上川と呼びます)勢いがすごい。
 
その約一週間後、僕の敬愛する向井秀徳率いるZAZEN BOYSが凄まじいアルバムをドロップしました。「夕暮れまみれで気が狂った男」とは僕のことです。
 

 

 

From a Motel 6

みなさんはYo La Tengoというアメリカのバンドをご存知でしょうか。結成40年になる東海岸出身のグループで、多様なバックグラウンドを感じさせる音楽性や詩情が魅力で世界中にコアなファンがいます。日本の有名どころだと坂本慎太郎などでしょうか。一緒にライブしたり会談したりもしています。

坂本慎太郎が選ぶYO LA TENGOの曲ベスト5 | simonsaxon

(ジェームズが選んだ曲が無い!!のあの伝説のライブ版なのヤバいな)

僕もこのバンドの大ファンで、待てど暮らせどバンクーバーに来てくれないことにやるせない気持ちを抱いていたのですが、ある日「来ないなら見にいけばいいじゃない」と天啓が降りて来たのでその日に飛行機とチケットを取りました。

チケットの空き状況、週末かどうか、バンクーバーからの距離などを考慮した結果選ばれたのはコロラド州の小都市Fort Collins。これがカオスな一人旅の始まりでした。

 

Fort Collinsってどんなところ

コロラド州の州都デンバーから百キロほど北の都市で、ロッキー山脈の東の麓に位置しています。西を見ると高い山々が、東を見ると果てない地平線が広がっている自然豊かな場所です。人種構成は白人が80%、ヒスパニックが10%ほどで、アジア人は一人見たかどうかくらいのレベルでした。この辺はバンクーバーとはまるで違いますね。

Fort Collins, Colorado - Wikipedia

研究室の友人がコロラド出身なので助言を求めたところ

  • 冬のコロラドはスノースポーツするんじゃなければ最悪の時期
  • 車なしでFort Collinsに一人で行くなんて気が狂ってる
  • お前の旅には何の意味もない

などとありがたい言葉をいただきました。アメリカの郊外に行ったことがなかった自分は、特に二つ目の言葉の意味をのちに知ることになります。

 

旅程

飛行機と宿だけ抑えればあとはどうにでもなるだろがモットーなので、旅程は前日夜に組みました。当日空港でESTA(米国用簡易ビザ)の期限があと四ヶ月しか無かったことに気づきヒヤッとするが、これが始まりだった、、

旅程は金曜の夜発の飛行機でデンバーに24:00着、空港近くの宿までUberで移動、翌朝まあ何やかんやでデンバーに行きそこから高速バスでFort Collinsまで北上するというもので、Fortの宿がダウンタウンから少し離れたところにあるので市バス(なんと無料)を使うことにしました。

 

飛ばない、飛行機

やることをちゃんとやらない割に無駄に心配性な自分は空港に二時間ほど早く到着し、文献を読んだりしていました。そこで流れてきたのはエアカナダデンバー行きが2時間遅れとのアナウンス。

お家芸

24:00着の時点で宿のチェックインやUberがちゃんと捕まるかが不安だったのに、さらに悪化しました。北米最強レベルの遅延率を誇るエアカナダ、流石に仕事をこなしてくる。慌ててホテルにメールとBooking.com両方で連絡しますが返答はなく、こんな深夜に本当に宿に辿り着けるのか心配が募ります。

これならいっそ空港に泊まった方が良かったか(エアポートビバーク、エポビ?)などと後悔しつつ飛行機に乗りデンバーに着いたのは本当に午前2時で、外は大吹雪でした。もう疲れたのでさっさと宿に行こうと思ってUberのアプリを開いたところ、たかが10km程度の移動で値段が50ドル (=6500円)と出てきて目を疑いました。前日見た時は10ドル程度だったので何も気にしていなかったのですが、Uberの値段って混雑状況によって変動するんですね。一瞬本気で歩こうかと思いましたが、外は氷点下10度の吹雪だったので諦めました。そもそも高速道路しかなくて人が歩くことは想定されていないので、徒歩の選択をしていたら確実に凍死していたと思います。結局泣きながらUberに乗りホテルに到着、幸いカウンターは開いていたので無事部屋に辿り着くことができました。ちなみに謎のテンションで興奮状態だったのか、その後床に着くも午前6時まで全く眠れませんでした。ふざけんな。

翌朝はコロラドらしく快晴でそれはそれは美しく

メリカ

コーヒーを飲んでようやく一息つきました。無料の朝食は全然うまくないマックグリドルのパチモンみたいなやつをレンジでチンするスタイルで、普通にちょっと嫌でした。

メリカ

 

全員雰囲気で移動している

自分が一晩過ごしたホテルエリアはデンバーへのアクセスがかなり悪そうだったので、空港行きのバスに乗って一度空港を経由してから電車でデンバーへ行くことにしました。券売機で電車の切符を買うのですが、クレジットカードを2秒ほど差し込んだ後引き抜くことで支払いが完了するちょっと変なシステムで、支払いに成功したおっさんが周りのおばあちゃんとかに指導して回ってたのがなんか面白かったです。

しばらく駅直結のホテルのエントランスに避難して寒さを凌いでいたところ、周りの乗客らしき人が突然ゾロゾロ外に出て行ったので電車きたのかなと思って自分も外に出てみたら別にそういうわけではなく、同じように外に出た人も口々に「なんかみんな出てったから外出てみたけど何もわからん」とか言っててマジ適当だなお前らと思いました。すると集団の先頭が駅員と話した後V字に向きを変えました。なんだなんだと思って駅員に聞いてみると、「なんか電車来ないっぽいから臨時のシャトルバスあっちで乗って」とか言ってます。確かに券売機に朝8時まで運休と書いてあったのですが、もう10時近かったのでなんでなのと改めて聞いたら「知らないけど動いてないんだからしょうがないじゃん」的なことを言われました。もう何聞いても無駄だなと思い指さされた方に行ってみますが、特に乗り場が明記されているわけでもないので人が溜まっているそれっぽいエリアで待つことにしました。当然周りの人々も何も分かってないので皆お互いに「デンバー行くんだけどバスここで合ってる?」と聞き合っています。程なくしてバスが来てことなきを得ましたが、謎の一体感が生まれました。

ここ数年はサンフランシスコ、東京、ロンドンのような大都市しか行っていなかったので、他人と助け合いながら方向を定めていく感じが新鮮で良かったです。

駅から冬山を望む

こうした大小無数のトラブルを乗り越えようやくデンバーにたどり着いたのは11時前、Fort行きのバスまで少し時間があったので、近くのマーケットでどこにでもありそうなおもんないピザを食べました(面白くないのはお前でピザはうまい)。耳までしっかり食べました。えらいね。

鴨とネギ、ピザとコラ

バス停に戻って時刻表を確認するとFort行きのバスがなく、代わりに同じ時刻にSalt Lake City行きのバスがあります。あれ?と思って切符を確認すると、自分が取ったバスはFortを経由するSalt Lake City行きの長距離バスだったのでした。

ワロタ

また微妙な計算違いがあったなと思いつつとりあえず目的地には向かうようなので安心してバスを待っていると、なぜか周りのバスを待っている客がみんな話しかけてきます。

黒人女子「Fort Collins行きのバスってここだよね?バスっていつも予定時刻のどれくらい前に来るもんなの?」

おれ「デンバー初めてだし知らん」

顔にタトゥー入れたヒスパニック系男性「バス12:50だよね?」

おれ「うん(切符見ろ)」

中東系男性「Fort Collins行きのバスってここだよね?」

おれ「うん(今までのやり取り聞いてなかったのかよ)」

コロラド人、マジで全員雰囲気で移動してる説

 

ヤバいワイオミングまで行ってしまう

乗客の不安とは裏腹にバスはほぼ時間通りに到着し、切符を見せて乗り込みます。バス意外と古いっすね、コンセント動かないし窓汚すぎて外見えないし。

バスが発車すると、運転手から挨拶がありました。

「今日はSalt Lake City行きのバスに乗ってくれてありがとうな。私の名前はXXX(忘れた)。まずは注意事項がある。酒禁止・タバコ禁止・ドラッグ禁止。不必要に立ち上がらないこと。よっぽどの緊急事態じゃない限り運転席に近づくな。大声での私語禁止。私語がうるさいと感じた場合まずアナウンスで注意を入れる。それでも聞かなかった場合はバスを止めて直接注意する。3回注意しても改善されない場合は残念だがそこで降りてもらうことになる。あなた達をバスから追い出すのは本来私の仕事ではないのでちゃんとルールを守ってほしい。」

修学旅行のバスかよと一人でめっちゃウケてたのですが、発車して程なくしてちょっと車内が賑やかになってきたタイミングで早くもアナウンスが入り、ヒスパニック系のグループもしくは中東系の二人組(名指ししてなかったのでどっちか不明)が一ポイントを獲得してしまいました。全員「あ、あれマジだったしこのレベルの音量でもダメなんだ」と思ったはずです。

また数十分ほど高速を走ったのち、突然バスが減速し高速脇に停まります。今度は何かと思ったら運転手が降りてきて前の家族連れに「子供がうるさすぎるから後ろに移動して欲しい」と注意していました。全員「子供にも容赦ないんやな」と思ったはずです。

しかし十時間のドライブでドライバーは一人だけのようで、ある程度乗客もマナーを守るべきなのかもしれません。

そんな若干の恐怖政治もあり車内は落ち着いた雰囲気になり、昨晩ほとんど眠れなかったこともあり自分もうとうとしてきました。やがて高速を降りる気配があり地図を開くとちょうどインターを降りるところでした(右下の青丸)。

この時点で左上のピンが立っているダウンタウンに向かうものだと思い込んでいた自分は「そろそろ起きておいた方がいいかもな」と呑気なことを考えていました。するとバスはすぐに右折して公園に入り、「Fort Collinsに到着。ここは短時間の乗客の乗降だけなのでここが目的地じゃない限り出歩かないように。」とのアナウンスが流れます。地図を見ても自分はダウンタウンから遥か遠くにいます。

今回一番焦った瞬間

いまだにここしか停まらないのか信じられない自分は直感に賭けて粘る作戦も一瞬考えましたが、外してワイオミングまで飛ばされるリスクがヤバすぎると思い次のことを考えずにバスを飛び降りました。降りてチケットを確認すると目的地はHarmony Parkと書いてあったので、完全に自分の勘違いでした。

学び:知らないバスに乗る時は乗り場と降り場を確認するのがおすすめ!

さてどうすんべと思ってGoogle mapでルートを再検索すると16番の市バスを使うルートが出てきます。あーバスあるのか良かったと思って顔を上げると16と表示したバスが滑り込んできました。慌ててダッシュして乗り込み、運転手に行き先を確認してようやく山場を乗り越えたのでした。

 

Abbey roadの終わってるバージョン

スマホの電池が切れそうで厳しかったのでライブ前に宿にチェックインして少しでも充電することにしました(その薄汚いiPhone8を早く買い替えろ)。郊外のモーテルまで市バスが走ってたので終点で降りて道の反対側に渡ろうとしたのですが、え、信号なしにこれ渡れって言ってんの?

見にくいけど真ん中のコンクリが盛り上がってるところが中央分離帯で、その向こうにもう二車線ある

高速に繋がる幹線道路なので、両方向にえげつないスピードの車がブンブン走っていきます。近くの信号らしきところまでは十分くらい歩く必要があり、それをするとスマホの充電プランと次のダウンタウンに戻るバスとの時刻表をあらためて擦り合わせていく必要があります。しばらく逡巡しているとデニーズから出てきたババアがテイクアウトの袋を下げたまま平然と渡っていきました。それを見たら急にアホらしくなって自分も車が切れた隙に渡りました。いつか死ぬと思うけどな、これやってると。

 

閑話休題:めし

北米の料理で一番美味しいと思うのはバッファローチキンウィングです。日本でも食べられるところあんのかな?

揚げた鶏の手羽元にめちゃくちゃ酸っぱくて辛いソースを絡めたもので、これをブルーチーズのソースにディップして食べます。味付けもブルーチーズもクセが強いので好みが分かれそうですが、好きな人はめっちゃ好きだと思います。食べられる機会があればぜひ。

 

カナダから来たヤバいオタク

ようやくYo La Tengoのライブの話になります。ライブはSold out、せっかく来たので前で見たいなということで開場と同時に入りました。もうすでにビール飲んでたのでドリンクも買わずに直行、無事三列目を確保できました。

客層はほぼ白人で年齢層は多様、未成年の少年少女から初老の男女までいました。前にいた少女が物販で買ったらしきStuff Like That Thereのレコードを抱えていたのでめっちゃ渋いセレクションだなと思っていたところ、それに気づいた隣の中年の女性二人組がめっちゃセンスいいわねと話しかけてました。

pitchfork.com

この女性のうち一人がかなりコアなファンのようで、YLTを追っかけてNorth CarolinaやNYまで行ったという話をしていたので自分も会話に参加しカナダから見に来たと言ったらヤバいアジア人のオタクが現れたみたいな雰囲気になりました。このファンの女性(メーガン)や近くにいた黒人の青年とは開演までいろんな曲や昔行ったライブの話で大層盛り上がりました。

自分はYo La TengoのI heard you lookingという曲がこの世の音楽の中で一番好きで、シンプルなリフが徐々にカオスに変形していく展開、ノイズの渦に巻き込んでいくようなアイラ・カプランの狂ったギター、それを土台として支えるソリッドなベースとドラム、そしてあらゆるノイズを鳴らし尽くした後、最後に元のリフに戻ってくる壮大な旅のような曲です。僕はこの曲が好きすぎて聴くと感情がブチブチとちぎれそうになってしまうので、この感覚を失いたくなくて特別な時以外聴かないようにしているくらいです。

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自分の葬式ではこれを爆音で流してほしいと常々言っていたのですが、メーガンと一番好きな曲はなんだという話になってメーガンが「I heard you looking、これは生きて死ぬみたいな曲で私の葬式で流れる曲」と言っていたのにマジで感動しました。「自分の葬式で流れる曲」で意見が偶然一致した人、相当少ないんじゃないでしょうか。

そんなこんなでコアなファンたちと大層盛り上がって開演となりました。最近はライブに行ったら意外と音が良くなくて入り込めなかったりしたのですが(Yves Tumorとかかなり微妙だった)、ヨラテンゴに関してはそんな心配もなく最高で、東京で行った六年前のライブと同等かそれより良いくらいでした。

新譜の曲の中でも特にシューゲイザーのような音像が神秘的なMiles Awayはライブでもその雰囲気を完全に再現していて感動しました。

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往年のギターロックの名曲Sugarcubeも最高で、イントロのリフで卒倒しそうになりました。撮ってYoutubeに上げてくれた誰か、マジありがとね

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あとは自分が一番好きなアルバムPainfulから馬鹿でかいベースと暴れ回るキーボードがクソかっこいいSudden Organを演ってくれたのも来た甲斐がありました。

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全曲良かったですが、I heard you lookingはやってくれませんでした。ライブのセットリストは毎回大きく変わるので、これを生で聴くことを目標に今後も生きて行こうと思います。

 

From a Motel 6

ライブの後夢見心地で宿に戻り、朝食をダイナーで食べてからデンバーに戻る高速バスに乗り込みました。ライブにたどり着くまでの苦労に何が旅情だよクソがと思っていましたが、ライブが最高すぎて完全にリセットされてしまった安っぽい自分は、北米での暮らしに終わりが近づきつつこともあり少しセンチメンタルな気分になってきます。

カナダやアメリカの郊外は得てして大きな幹線道路が交通の要になっており、日本でもそうであるようにそのロードサイドにはデニーズのようなチェーン店や煤けたダイナーが並んでいます。これは自分が好きな北米の音楽のベースとなる風景の一部でもあり、思い出のために写真でも撮っておこうかなという気分になりました。

なんの変哲もないロードサイドの写真を何枚か撮った後うたた寝し、後でアルバムを見返したところその一枚目の写真に大きな6の文字を見つけました。

気になって調べるとこれはMotel 6というチェーンのモーテル会社の看板でした。これが自分の中では衝撃で、なぜかというと自分がこのMotel 6という名前を知ったのはまさにYo La Tengoの名曲「From a Motel 6」だからです。

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Motel 6というのが実在するモーテルの名前であることすら知らなかった自分が、一枚目の写真で偶然それをフレームに入れるというのは奇跡だとしか言いようがありません。自分以外には何の意味もない偶然ですが、このためにコロラドまで来た自分には特別な思い出になりました。奇跡というのはそんなものなのかもしれません。

旅情2

12月の初頭にベルリンに行きました。ここバンクーバーからは直行便がなくフランクフルトを経由する必要があったのですが、フランクフルトはハブ空港になっているようで飛行機は遅れまくるわ周りの人はみんなイラついてるわで疲れました。前日に雪が降ってドイツの他のエリアでは飛行機が欠航になったりしてたのも影響していたみたいです。

行きの飛行機では宇宙船で冬眠カプセルに入って100年旅をする予定が機械の不具合で冬眠が解除されちゃってどうなっちゃうのみたいな映画を見ました(つまんなかったのでタイトル調べる気もしない)。フライトの暇つぶしとしては別に文句ないですが特に感想はありません。

フランクフルトでのてんやわんやがあって初めて空港でガチダッシュしたりしたのですが無事ベルリンに到着、空港は木材を多く使った建築で温かみを感じました。一方外に出てみるとこんな感じで

しばらくバンクーバーに住んで曇りがちな空に慣れてしまったのか、自分には灰色の荒涼とした風景が結構馴染むようです。この風景に柱とカクカクしたモダンな建築との相性もいい気がします。

空港からベルリン市街中心部、宿までは全て電車ですんなりいけました。ベルリンは電車が発達していて移動が楽なのが北米と違っていいですね。到着後最初の食事はもちろん

は?

ショッピングモールのカレーでした。「俺の今のバイブスに最高にマッチする運命のローカル店があると信じ歩き回った結果疲れ切って駅前のやよい軒に戻ってくる」のベルリン版を到着早々やってしまいました。東京でもよく失敗するのに初めての街でも常に高みを目指すおれ、流石すぎます。ちなみにカレーはかなり本格的なインドカレーで美味しかったです。

そういえば先日「たべっ子どうぶつの次に来る激アツトレンドは何か」という話題で盛り上がってチョコボールを提案したのですが(今日本ではたべっ子どうぶつのキャラが流行っているそうで、筆者があの「一周回ってる感」に随分と前から目をつけていたことでこの話題が出ました)、実際のところ複合型ショッピングモールや郊外の国道沿いの「あの感じ」はそろそろ来てもおかしくないんじゃなかと思っています。計画開発による景色の画一化、没個性化という問題は無論その通りですが、結局人はノスタルジアに支配される生き物なので多感な時期に過ごした風景というのは多くの人の脳に刷り込まれているはずです。そしてこれはインターネットの感性が鋭い人たちによってすでに使われている風景で、あと数年したらビームス洋服の青山の看板や国道1号線のガストと駐車場が馬鹿でかいすき家の写真がプリントされたスウェットを売り始めるかもしれません。そしたら終わりです。

話を戻します。最初の数日間泊まった宿は朝食が出たのですが、冬のドイツなのに超トロピカルなフルーツが出てきて面白かったです。

飯うまかった

思わずトロピカル軍団を取ってしまったのですが、ご存知の通り私もトロピカルな男ではないのでそもそも何を食べてるのかわからず「今食べちゃいけないとこ食べた気がする」「ほとんど種じゃないですか」「皮!?!?」とか心の中でツッコミながら知った風で食べました。一番良かったのは全自動オレンジ生搾りマシーン

エヴァの射出シーンくらいメカメカしい

ジュースのリザーバーが空になると機械の上に積まれているオレンジが二個機械に落ち、自動で皮剥き、絞り、絞りガラを捨てるところまで並列で行われるハイテクマシーンで、「技術力の無駄遣い」以外の感想が湧きませんでした。回転寿司を初めて見た人もこういう感想を抱くのだと思います。

ベルリンの街中はいわゆるヨーロッパ風の建築とモダン建築、共産主義建築がエリアごとに固まっていて歩いていて面白かったです。

歩いているだけで楽しい

散歩がメインの日はふらふら歩きながら古着屋やレコード屋を覗いたりしました。街ゆく人が皆オシャレでした。

ベルリン三部作

ベルリンはトルコ系移民が多いらしく、トルコケバブが確かに美味しかったです。あと定番のカリーヴルストも食べました。うまかったので帰ってからケチャップとカレー粉ととんかつソース混ぜてみたらそれっぽい味になりました。まあでもこれは屋台で食べるからさらに美味いんでしょうね。

ベルリンに数年住んでいた建築家の知り合いに事前に色々教えてもらったのですが、ベルリンは冷戦期に西側のショーケースとしてたくさんのお金が入ってきたため、西側エリアではレベルの高いモダン建築が見れるそうです。確かに政府庁舎のあるエリアでは

散歩したら気持ちよさそう

なんの建物なのかは知らない

エヴァに出てた使徒の方ですよね?

近代的なデザインの建物が乱立していて、歴史的な背景を絡めると面白かったです。東側の代表的なエリアにも行きました。ちゃんと建築デザインの歴史を勉強できていないので正確にどれがどのスタイルに属するのかわかっていませんが、確かに全く違う雰囲気の荒涼とした建物が並んでいて威圧感を感じました。

スターリン様式の建物を改修して作ったアートギャラリーと奥のテレビ塔の対比がしたくて撮った一枚

この旅行で一番気に入った写真はこれでした。

東ベルリンという文脈を踏まえた上で、掲げられたウクライナの国旗、それが色褪せていること、なんとなく疲れているように見える女性など、直接的、間接的に世界で起きている色々なことを考えました。

ベルリンはアートの街ということで美術館も行ける範囲で行きました。多すぎて全部は到底回れなかったので、またチャレンジします。一番良かったのはHamburger Bahnhof

初号機?今回の旅の裏テーマはエヴァンゲリオンだったのかもしれない

記憶が正しければ古い駅舎を改築して作った美術館とのことで、駅っぽいホールに巨大なインスタレーションがありました。

ちょっと震えたり音が鳴ったりしててキモかった

生物と非生物の中間を探るコンセプトらしく、生物を生物たらしめるものとは?ということを考えました。動くこと?生殖?流線型?色?他のエリアではLee Ufanの回顧展をやっていたのが良くて、あと常設展ではリヒターが好きでした。

見たら忘れない感じする

他の美術館で大規模なリヒターの回顧展もやっていたのですが、以前サンフランシスコかどっかでリヒター展見たことがあるので今回はスキップしました。

クリスマスシーズンだったのでクリスマスマーケットも行きました。グリューワインがうまかった。お屠蘇の味がしました。

あとシュニッツェルが美味しかったです。美味しんぼだったら「やはりカツにはソースに限る」ってソースかけてシェフブチギレさせてると思いますけど。

 

ベルリンの街は正直清潔とは言えないけど、エネルギーがあって好きでした。ゴミ一つない綺麗な街並みも好きだけど、ゴミが散らばった薄暗い街並みからも立ち上ってくる人の暮らしのピュアな部分が感じられるようで、向井秀徳やルーリードが描く都市の混沌とした情景の「もののあはれ」のような気持ちと似通うものがあるような気もします。

ありきたりな表現ですが、車窓から見る家ひとつひとつにそれぞれの暮らしがあるように、世界中の街それぞれに文化とそこに住む人たちの暮らしがあって、そういったものに親しみや愛おしさを感じられる鋭さを持っていたいものです。

 

何このキショい終わり方?

旅情

少し前の話ですが、夏にロンドンに遊びに行ってきました。

行きはサンフランシスコ乗り換えで、ロンドン行きの飛行機がちょうど学会でサンフランシスコに来ていたケンブリッジの友達と一緒だったので空港で合流しました。ユナイテッドの便だったのですが機内食が不味すぎて大盛り上がりしました。自分は機内食に不満を感じたことはほぼなかったのですが、口の中の水分全て持っていかれるラインナップに辟易しました。デザートはこちらのミルクバー チョコレートプレッツェルクッキークランブルケイク ミルク

ミルク

よくわかんない味がしました。

 

ロンドン観光

Deptfordというところで週末に行われる蚤の市に行きました。

どういった文脈

ゴミにしか見えないのですが、市場が終わった後そのまま捨てて帰るらしいです。ゴミじゃん。

そこらへんで拾ってきたと思われるコードを詰め込んだだけで売る気が微塵も感じられないところを見ると、商売とはなんなのか考えさせられます。他にもスマホを見ながら歩いていると奪われてすぐ近くの屋台で売られたり、盗まれた自分の自転車と同じにしか見えない自転車が売られていたりと不思議なことがたくさん起こる場所らしいです。

観光客ムーブ

オシャレな人が救急隊員のジャケットはイケてるといってたので試着してみました。ちょっと臭かったし、襟のところにDanielって記名してありました。Daniel寒い思いしてるだろうな

 

続いてUKのアーティスト、Four tetが五時間ぶっ通しでDJやるイベントに行きました。顔色が悪くて心配になりました。あといろんな色の錠剤を飲んでる人がいました。

サウンドに加えて光のエフェクトが幻想的で良かったです。ただシラフで五時間四つ打ちは流石に厳しいものがありました。

 

あと音楽好きの聖地Rough tradeにも行きました。周辺は美味しいコーヒー屋があったり古着屋があったりなんだかシャレてる感じでした(そんな雑な感想ある)。レコードの一枚でも買って帰ろうかと思いましたが、別にレコードなんてどこで買っても一緒だしなとか風情のかけらもないことを考えイーストロンドンの昔の写真集を買いました。そんなもんレコード屋で買うな

オタクはすぐポッケに手を入れる

美術館/博物館関係ではまずWellcome collectionに行きました。遺伝学がいかにして人種差別や優生思想に寄与してきたかという重たい内容の映像作品を4本見ました。ゲノム生物学の研究者として非常に考えさせられるものがありました。

特にGOD_MODEというRPGの世界観でいかに構造的な差別が存在しているか、優生思想が今も痕跡を残しているかという点を表現した作品がめちゃくちゃ良くて2回観ました。音響も相まってポエトリーリーディングみたいな感じがあったのも良かったです。

これはマジで最高

常設展示として界隈では有名なメガプレート実験の解説もありました。時間的なプロセスである進化という現象が二次元空間上で可視化されるというところにアツさを感じますね。余談ですがこの研究をリードしたハーバードのMichael Baymという研究者が先日バンクーバーに来たのですが、2023年に聞いた中で一番面白かった発表でした。

見える進化

あとは自然史博物館の鉱石コーナーを勧められて行ったんですが、これがめちゃくちゃ良かったです。

環境条件が適切に与えられると自律的にパターンが生まれるというところが生体の形成や生命システムの進化のアナロジーになりそうだなと思い、興奮しました。美術館や博物館はこういう自分の中で何かがハマって物事が15°くらい斜め上から見れるようになる瞬間が気持ちよくて行ってます。イギリスは美術館の類がけっこう無料なのがやばい。

ちなみにこういうところでエネルギー使いすぎてテートモダンでは疲れて頭が動かなくなってたので特に感想はありません。また行きます。

そしてブルータリズム建築の代表格らしいバービカンは凄まじかったです。飲み会で会った建築家の人に勧められて行ってみたのですが、馬鹿でかい上にデザインの統一感があって、ビル群の中にありながら隔絶したような不思議な静かさがありました。コンクリートの無骨な感じとの釣り合いを取るように置かれた緑や水辺、窓辺の花や細々とした生活用品が人の暮らしを感じさせ、有機的?な印象を受けます。

そしてそこのカフェテリアで雨を眺めながら飲んだコーヒーは不味すぎて最悪でした。

他にもなんで私がブラジリアンサンバパーティーに??みたいな話もありましたが割愛します。ちなみにロンドンアイも宮殿もロンドンブリッジも大英博物館も行ってません。まあいつか行く機会もあるだろう。

他にも旅行に行った+行く予定があるので、旅情シリーズは続くかもしれません。

Art, Science and Philosophy

小さい頃から世界の構造に興味があった。それは世界を統べる法則を知ること、もしくは世界を記述する言語を知ることとも言える。

特に複雑なシステムが現れる過程は神秘的である。例えば生物種の多様さ、その形質の多彩さにはいつも驚かされるが、同時にこの無数の生物種はたった一種の単細胞生物を先祖とし、数億年、数十億年という途方もない時間をかけて現れて(そして無数の種が失われて)きた。似たような現象は生物の個体の形成プロセスにも見出だすことが出来る。有性生殖を行う多細胞生物はたった一つの受精卵が分裂し、この過程を繰り返すことで数十億個の細胞から構成される一つの個体が作られる(専門用語で発生という)。この細胞たちは発生の過程で徐々に特定の機能に特化してゆき、ゲノム、遺伝子発現、細胞間コミュニケーション、シグナル伝達といった多様な階層の内外で交わされる入力と出力が絡み合った複雑精緻な生命システムが作られる。このシステムが動作するおかげで、僕たちは動き、思い、生きる。

どれだけ複雑なシステムであっても、そこには構成単位が存在し、そこに付与された性質や構成単位間の相互作用によってシステムが構築される。こうした性質は何も生命にのみ見られるようものではなく、例えば建築様式からも要素と総体という構造が見て取れる。

Barbican centre, London, UK

そして、類似した要素であってもそれが繰り返され、調和することでその総体は個々の要素とは全く異なる有機的な質感を与える。これは建築様式でもそうだし、音楽でも何度も試されてきた。

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この”繰り返し”という事象は、複雑なシステムが自律的に形成される過程を考える上で不可欠なものに思えてならない。全く新しい要素(ノード)を一から作り出すよりも、既存のノードを複製し、そこに改変を加えていくことで機能を発揮させる方が安上がりだからだ。その実、生物のゲノム配列は数十億組の塩基対で構成され、そこにコードされた遺伝子たちの働きによって細胞の機能は発揮されるが、そのゲノムは半分近くが太古の昔に感染したウイルス由来の配列の繰り返しで占められるとともに、ゲノム中の一部の配列が大量に重複した領域も多く見られる。こうした領域では、配列の類似性が美しい幾何学パターンを形成する。

マウスのY染色体地図。格子状のパターンは全て同一配列の重複。Soh et al. 2014

さらに、「繰り返しが繰り返される」ことでそこに入れ子構造、すなわち再帰性が生まれる。再帰性の帰結としての階層構造は進化系統樹、細胞発生系譜樹、言語体系といったさまざまなシステムに見受けられるが、これはひとえに繰り返しという操作のコストの低さに起因するのではないだろうか。

ここで矛盾するようだが、繰り返しがシステム形成の骨格となる一方で、完璧な反復というのは存在しない。細胞のゲノム複製は多数のエラー補正機能を実装することで極めて高い精度で行われるが、それでも確率的に誤りが発生する。この誤りの積み重ねがやがて生物個体の特性として顕れ、同一種のコピーだったはずの二つの個体は別々の道を辿り始め、最終的に異なる生物種として定義されるようになる。現代芸術家Lee Ufanの作品を見ると、いつも進化のプロセスについて考えさせられる。インクが切れるまで等間隔に置かれた筆跡は一度として同じにはならない。繰り返される要素に与えられる揺らぎが後戻りのできない差を作り出す。

Lee Ufan (Hamburger Bahnhof, Berlin, Germany)

生命システムや生物種の形成過程を”神”に丸ごと帰することは容易だ。しかしながら、人類は宗教の発展と並行してより普遍的な世界の記述の仕方を探し求めてきた(あるいは宗教自体が一つの記述の方法だったとも言える)。最も強烈な理論の一つはダーウィン自然選択説だろう。自然選択説は子孫の個体群の中でより環境に適応した系統が選抜されて次世代へと受け継がれていくという進化理論で、この理論は多様な特性を持った生物種の作られる過程を見事に説明するとともに、これらが全知全能の設計者(あるいは神)の存在なしに自律的に現れうることを示唆した(コペルニクス的転回とはまさにこのことだろう)。

科学、思想の歴史を振り返ると、人類にとっては幻滅の連続であったように思える。古代ギリシャの哲学者は絶対的な本質、イデアの存在を唱え、事象はこのイデア、もしくは基本原理の写像として目前に与えられるものだとした(洞窟のメタファー)。科学研究のモチベーションは元々この基本原理の探索であったはずだ。しかしながら、古代人が思い描いていた強固な因果律と美しい基本原理は科学の進展とともに瓦解し、むしろ物体の座標は確率論的にしか規定できず、三次元だと思われていた空間は捻じ曲がり、進化は総当たりと選抜の力技であることが次々と示されてきた。そして、思想も(これに先んじていたかは不明だが)同期するように世界の神秘性を捨て始め、相対化、複雑性といったポストモダンの道へと進んでいく。”神は死んだ”という有名な言葉は文字通りキリスト教的価値観の崩壊を意図したものであっただろうが、自分には基礎科学の方向性の転換を予言していたように思えてならない。

境界というものの重要性も考えさせられる。周りを見渡すと、人は境界を作り出すものに価値を見出すようだ。例えば袋は単なる湾曲した平面だが、物体を袋に入れて手に提げることで物体は境界の自分側に割り当てられる。あるいは住居、衣服もそうだろう。いずれも外界と自分を分ける機能を持つ。カントが言うように、境界というのは先天的に世界に存在しているものではなく、人間の認知機能の限界に沿うように人間が自ら割り当てたものだ。しかしながら、皮肉にも人間自身が世界の複雑性、連続性に気づいてしまっている。生物種は一定の共有された特徴量から恣意的に割り当てられたものであり、実際のところは個体ごと、世代ごとにゲノムが変異し、混ざり合い、分岐していく。進化は絶え間ない連続的なプロセスであり、種と種を分ける明確な壁は存在しない。同様に、この境界線に依存していた価値観、例えば国籍、人種、国家観は境界が滲むにつれ急速に溶け合い、相対化していく。

生命科学の分野では、単なる現象の記述、演繹と外挿に終始していた方法論から一歩踏み出し、機械学習を組み合わせることでより予測可能な生命システムのモデル化が取り組まれている。例えばゲノム配列から配列修飾や転写活性を予測することは一定の成功を収めているが、多様かつ複雑な階層を組み合わせてより本物の細胞に近いモデル構築に取り組んだ際も同様の成功が期待できるのか、あるいは膨大なパラメータの海で途方に暮れることになるのか(あるいは、必然的な不確定性が存在することによって不可能なのか)については分からない。

畢竟、科学と芸術は世界を記述するための方法であり、二つは世界の見方である哲学を通して接続される。そして、安心して身を預けられる価値観が存在しない現代において、自身の哲学を持つことが大事ではないだろうか。進化する大規模言語モデルは尤もらしい答えを返し、書店で平積みされているN=1の自己啓発本よりは当てにできるかもしれないが、それでも僕たち自身の哲学を組み立ててはくれない。

 

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多謝定向會 2022冬~2023春

你好!

広東語がわからないのでタイトルは調べました。謝謝じゃないのか。あと「ありがとう」には多謝(ドーチェー)」と「唔該(ンゴーイ)」があって、どっちが適切か、10分ほど調べました。このブログがあらゆる意味での感謝を意図しているのと、「唔該」は日本語の「どうも~」に近いんじゃないかなと思ってタイトルを「多謝」としました。

単に中国語の繁体字ver.なわけじゃなくて、言語や発音も異なるし、台湾とも語彙が違うんですね。遅くなりました、香港編です。

 

九龍半島

2019年の清里でIOFEAを取得してから資格を行使する機会がなく、実務経験がないと分からないし資格もったいないんですよね~と某教授と話していたら、それならちょうどよかった!と誘われたのがたしか2022年の春くらい、今月開催される某大会の某をしております。

大会までになにか書かねばと書き始めたは良いけれど、書けることがあんまりない!それはそう。これから行く人に向けての簡単で普通なガイドでも書いておこうかなと。

 

九龍寨城公園

大会参加者や多くの人は九龍(カオルーン)エリアに宿泊するはず。大会公式宿は深水埗(シャムスイポ)駅の近く。香港国際空港から30分から1時間はかからないくらい。電車と地下鉄を乗り継いでもいいが、たぶん空港直通バスに乗るのが安くて速くて便利。

八達通(Octopus Card)というのがSuicaみたいなやつで、公共交通でもコンビニでも何でも使える便利なやつ、旅行者は現金チャージしかできなさそう。空港でカードを買って、香港ドルに両替しとくと良いかも。

物価は日本と変わらないくらいの印象でした。ローカルなランチが1食500円から1000円、飲み物やお菓子は1個100円とか200円とか。日本の食べ物や商品がそこら中で簡単に手に入って、それらは日本より若干高いかな~くらい。イオンやユニクロ吉野家セブンイレブンが普通にある。あとサークルKが生きてた。公式宿の周辺もかなり都会なので食べ物や買い物に困ることはないと思います。

支払いは大きな店やチェーン店ならクレジットのタッチ決済が普及していて、それ以外の個人商店でもOctopus Cardで事足りるはずです。残高不足するとか、現金だけの個人飲食店もあるので現金は必要に感じました。それでも金融都市だけあって街中の至る所に両替所があります。現金が不足したら頼ってもいいですがレートが分かりにくかったり悪かったりするそうなのは注意です。ATMもそこら中にあります。そういうのも含めて宿の周辺は山手線内側くらいの感覚です。

英語がどこにでも併記で書いてあるし会話も通じる以外に、漢字が容易に読めるので看板どころかニュースですら意味がわかる。もしコミュニケーションで困っても筆談でたぶんなんとかなる。あと日本語分かる人もわりと普通にいるっぽいので、異国だからと日本語で文句や汚い言葉使うのはやめといたほうが良いかと。

 

ビクトリア・ピーク

12月の気候はだいたい日本の春4月くらい。半袖ではちょっと寒いときもあるので上にウィンドブレーカーというかソフトシェル1枚で十分なときがほとんど。それでも香港人は寒がりなのかモコモコ着込んでいて面白い。

 

たぶんホンコン、アジアンカオスを体感する素敵な街でした

youtu.be

こんなもんかな

よい旅を!